第33話
検査(5)PCR検査―その3
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シーラ先生
PCR法の原理は、お分かりになったと思いますので、実際の検査についてお話を進めます。
ウイルスに感染した人の痰や鼻水などの体液にはウイルスが含まれているので、体液中のウイルス量(数)を測定すれば感染しているか(陽性)、していないか(陰性)が診断することができます。
診断ができるためには2つの条件があります。
①検出できる感度の方法があり
②診断したいウイルスだけを特異的に検出する
PCR法は、この2つの条件を満たす優れた検出法です。なぜなら
①については:ウイルス1個当たりのRNAの数は一定に決まっているので、RNAの量を測ればウイルスの量が分かります。RT-PCR法を使えば、少量のRNAをDNAに変換して、検出できるまでDNA量を飛躍的に増やすことができるので、十分な感度が得られます。
②については:RNAはSARS-CoV-2に特有の構造(配列)になっているので、診断したいウイルスに特異性の高い検出ができます。 -
図33-1 コロナウイルスPCR検査の手順 -
シーラ先生
次に検査の手順について図33-1で説明しましょう。
この方法は国立感染症研究所が作成した感染研マニュアルによるものです。
まず、①検体の採取です。ウイルスが体内に存在しているかを調べるために、主に2つの方法で採取しています。
1つ目は、鼻の奥から鼻咽頭ぬぐい液を採取します。これには、正確な位置から検体を採取する必要があるため、専門家(医療従事の方)が実施します。
もう一つ、最近は、唾液でも十分な感度と特異性と再現性のあるPCRができるようになり保険適応もされましたので、自分で唾液を採取用キットの保存容器に2mlほど集めて、検査会社に送って検査することもできるようになりました。
検体採取の次からはPCRの手順になります。
②コロナウイルスのRNAを抽出して精製します。
③RNAをDNAに変換します。RT-PCR法ですね。
④DNAをPCR装置で増幅します。
⑤得られたDNA量を検出します。
別の方法でRNA の精製せずに,検体から直接ウイルス RNAをDNAに変換しPCR を同時に行うことができる方法(検体直接PCR 法)もあります。 -
ヒーくん
PCR法の感度はどうやって決めるのですか?
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シーラ先生
PCR法の感度は、検査で「陽性」か「陰性」を判断する基準にかかわるので、とても重要ですね。
第32話でお話したように、PCRで増幅されて出来るDNAの量は、増幅のサイクル数、つまり何回コピペしたかによって決まってきますね。
ですから、陽性と判断する基準値には、増幅に必要なサイクル数、CT値を使います。国立感染症研究所の新型コロナの検査マニュアルでは、原則この値が40以内でウイルスが検出されれば陽性と定めています。つまり、PCRを40回繰り返し増幅してできたDNAが検出されれば陽性ということです。
基準を高く設定するとウイルス量が少なくても陽性と判断されます。
台湾では35未満に設定しているとされています。日本の基準値CT値40で陽性と判定された検体が、台湾のCT35では陰性となる可能性があります。
基準値に国際標準はなく、実は日本の陽性者が別の国では陰性と判断される可能性もあり。基準値をどう設定するかは海外でも議論になっています。
基準値が問題になるのは、この値を高めに設定すると、ウイルス量がごく微量で、他人に感染させる恐れがない人まで陽性と判断してしまう恐れがあるためですね。入院や治療が不要な人まで陽性とされることもあるかもしれません。米国でも基準値は40前後に設定されていますが、一部の専門家から「30~35程度が適正だ」との声も上がっているといいます。
現在は安全性を第一に考え、日本は最も厳しく設定されていますが、研究が進めば基準の変動もあり得ると言われています。 -
レオン先生
PCR検査陽性陰性と言っていますが、一口では語れないのですね。
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ボンテン博士
感度、特異性の問題ばかりでなく、検査する時期によっても違ってきます。検査の精度を上げるためには、検査を一定期間に複数回することと、抗原検査などを併用することが必要になります。
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イケブクロ博士
検査の問題はなかなか奥が深いのう。今回はシーラ先生の独り舞台でお話していただいてしもうたな。
みんな静かじゃが、寝てしもうたのではないじゃろな。 -
ワクチー、ミク
起きてまーす。シーラ先生の話はちょっと難しかったけれど、面白いものね~。
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リバシブル総理
ちょっとウトウト良い気持ちになっていました。