第31話
検査(3):PCR検査―その1
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シーラ先生
では、検査の話を続けましょう。ヒーくんがSARS-CoV-2の検査には、PCR検査、抗原検査、抗体検査の3つがあることを説明してくれました。まず、現在最も使われているPCR検査についてお話しましょう。
PCRはPolymerase Chain RReaction(ポリメラーゼ連鎖反応)を略したもので、わずか数分子のDNAを増幅して、数mgものDNAを取得する技術です。
コロナウイルスはRNAウイルスなので、DNAはなく、代わりにRNAを持ちます。RNAではPCR法はつかえません。そこで、RNAをDNAに写し変えて(逆転写:Reverse Transcription)、DNAをPCR法で測定します。この測定法が、RT₋PCT法です。コロナウイルスの検査は一般にはPCR法と言わることが多いのですが、実はRT-PCR法というものです。 -
ヒーくん
RNAの量は、SARS-CoV-2の量と比例するから、RNAをDNAに写し変えて、そのDNAの量を計ればSARS-CoV-2を定量できるということですね。そして、一定量を超えたら陽性、その量以下は陰性になるのですね。
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シーラ先生
基本的にその通りですね。ただ、陽性、陰性の診断について良く理解するために、もう少しPCR法の基礎的な話を続けましょう。
ポリメラーゼは、DNAをコピー・ペースト(コピペ)して同じDNAを作る酵素です。ヒトの細胞では、RNAのポリメラーゼがSARS-CoV-2のRNAを複製しウイルスの遺伝情報が伝えられます。 -
図31-1 コロナウイルスのPCR検査 -
シーラ先生
さて、この図を見てください。コロナウイルスのPCR検査では、まずウイルスのRNAを逆転写してDNAに変換します。
次に①1本のDNAをポリメラーゼでコピペして2本にし、②この2本のDNAをそれぞれコピペして4本にし③4本を2倍の8本にし・・・とコピペを繰返します。例えば20回繰り返したら、DNAはもとの量の2²º =100万コピーのDNAができることになります。 -
ワクチー
ひぇー、凄い!そんなこと良くできますね。
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シーラ先生
「ひぇー、凄い!」ですよ!ワクチー。もう少し説明しますね。
実際には試験管の中にもとになるDNA(検査では検体由来です)と、ポリメラーゼと、ポリメラーゼが働くために必要な材料を入れた溶液で反応を繰り返して行きます。
数時間もすれば、痕跡量のDNAから増幅して、数mgのDNAが生成します -
ミク
それだけでPCR反応は進むのですか?
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シーラ先生
それ程簡単ではないのですね。実は反応を進ませるためには温度を上げ下げすることが必要なのです。では、繰返しの連鎖反応(=繰返しのコピペ)はどのようにすると出来るか、PCRの仕組みを説明します。
図の②の反応を見てみましょう。コピペされたDNAはもとのDNAと絡むように2重鎖になっています。次に③の反応で2倍になるときには、この2本絡んだDNAをほぐして1本1本にしないと、コピペできません。2重鎖の1本1本がそれぞれコピーされて2X2=4倍になります。絡んだDNAは熱をかけて温度を90℃くらいにすると、ほどけて1本1本が別々になります。
そして、1本のDNAにポリメラーゼを加えてやるとコピペされますが、この反応を進めるためには温度を約70℃に保つ必要があります。
つまり、PCRではDNAを2倍2倍にコピペする時に、温度を90℃と70℃で上げたり下げたりすることが必要なのですね。このために、PCR検査には時間と装置と技術が必要なのですね。 -
ワクチー
PCRって面白いけれど、もっと簡単でうまい方法はないのですか?
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イケブクロ博士
PCRもずいぶんと改良されたものもあるし、別の方法もあるのじゃが、その話を聞く前に、PCR法がどんなに画期的な発見であったかお話しよう。
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ワクチー
聞きたい、聞きたい!
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イケブクロ博士
よしゃ、よしゃ。
じゃが、この話は、カプチーノ休憩してからの楽しみにしましょう。